[ トップ ] [ English ]

鉱物名について

独立した鉱物であることを認定し、その名称を決定する機関は、国際鉱物学連合の中の新鉱物・鉱物名委員会です。 正式名はあくまで英語(一部他のヨーロッパ言語のアルファベットを含む) になります。一般には発見された地名や、鉱物学の発展に寄与した研究者、最初の採集者の名前にちなむことが多いようですが、 鉱物の形態や色を元にした名称も見受けられます。

しかしながら、動植物でもそうであるように、やたら細分化され、記載種が増える傾向にあります。 例えば斜長石グループは、NaとCaの組成比によって、 曹長石-灰曹長石-中性長石- 曹灰長石-亜灰長石- 灰長石と細分されていました。最近ではこのような細分を再検討し、 名称の変更や廃止も行われています。斜長石グループは、曹長石灰長石の2種に統合されたようです。 やみくもに脈絡のない名前が量産されるよりもこのような方向性の方がありがたい気がします。

また2007年には、1つのグループで特徴的な化学組成を接頭辞でつけて鉱物名としている場合、化学組成を後に直接つけて 区別することが決まりました。たとえば燐灰石や魚眼石では、chlor-、fluoro-、hydroxyl-、strontium-といった接頭辞がつけられて 個々の端成分が表現されていましたが、これはapatite-(CaCl)、apatite-(CaF)、apatite-(CaOH)、apatite-(SrOH)という 風に表現されることになりました。この方法は希元素を含む場合に1960年代から用いられた手法で、沸石(1997年)や緑簾石(2006年)などにも 用いられており、化学組成が直観的に分かってありがたいです。英語圏ではアルファベット順にソートすると、 同じグループが一か所にまとまるというメリットもあるようです。こういう改善ならどんどんやってほしいです。 garnet-(FeAl)、garnet-(CaFe)なんてのも期待してしまいますが、人名や地名などが歴史が関わる名前は消すべきではない、 という意見が大勢のようです。しかしながら、燐灰石については、2011年にふたたび元のchlor-、fluoro-、hydroxyl-をつける システムに戻ってしまいました。 ついでにいうと、英語のアルファベットにない表記、たとえばウムラウトやアクサン記号は 使用しないようにしよう、という提案もなされていますが、これは人名や地名などが歴史が関わる名前は同一の表記を使うべきだ、 という理由で否決されてしまいました。ただし、人名や地名などの根拠がないのに使用されていた場合は英語アルファベットへの 変更が認められました。

一方、スミスソニアン博物館 (Washington DC, USA)では、面白い試みがなされています。 固溶体にて中間組成を作る鉱物や色彩により名前が変わる場合(特に宝石名など)は、代表鉱物名を独立名とし、 細分名を変種・亜種などするというものです。例えば灰曹長石は現在の分類では曹長石になるので、 albite var. oligoclaseとなります。動植物での種の定義は、通常繁殖する集団を「種」としており、 固溶体形成を「一種の繁殖行為」と考えると、かなりまっとうな方法であると思います。 鉱物「相:phase」の基本は陰イオン側のフレームワーク構造であると考えると、 フレームワークごとに「鉱物種名」が統一された方が本質的と考えていいかもしれません。

この方法では、便利な通称名としか扱われることのなかった宝石名も学術的に取り込むことができます。 例えばルビーやサファイヤは応用物理などでは普通に学術用語として認識されているにもかかわらず 鉱物学的には無視されていますが、corundum var. ruby, corundum var. sapphireなどとすることができます。 なにしろ、「尾去沢石」とかいきなり言われても、ピンときませんが、 「明礬石 変種 尾去沢石」と言われれば納得しやすいので、 私は大賛成ですが、どうでしょうか。